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ユートピアだより [書籍他]

 科学的、実に科学的。

ユートピアだより (岩波文庫)

ユートピアだより (岩波文庫)

  • 作者: ウィリアム・モリス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/08/21
  • メディア: 文庫

 実に400ページ近い本なのですが読みやすい翻訳なのとそもそも学術書ではなく詩人の書いた軽いお話なのでサクサク読める、しかしいきなり本文を読むよりは巻末の解説を先に読んだ方が読みやすいわ。その解説に「共産主義社会への移行の過程がマルキシズムの立場に従って精細に科学的に述べられている」とあるとおり、本書を読めば共産主義が如何に非科学的な妄想なのかが実に科学的に理解できると言う意味で必読の一冊です。

 と言うのも、19世紀末のロンドンとほぼその延長線上にある1950年代までのロンドンの市民と言うよりもイギリス国民がモリスに徹底して侮蔑すべき存在と描写されていたのが、革命の過程で突如ユートピア住民にふさわしい超人に差し替えられるんだよね。SF映画に有りがちなある朝突如隣人が皆インベーダーやロボットにすり替わっていたと言うレベルの話で、革命のプロセスで何をどうするとみじめな賃金労働者が超人になるかの描写が一切無い

 そして21世紀のユートピアと化したロンドン住民は生まれてある一定の年齢になると自主的に学習を始めて読み書きそろばんを身に付けるそうな、「狼に育てられた少女」みたいに教育を受けないと人語も解さず四つん這いで暮らす事は無いらしい。教育を受ける権利を訴えてノーベル平和賞を受賞したマララさんが聞いたら卒倒するレベルの幼稚なバカ話。そして誰もが自主性と向学心向上心を持ち進んで労働に従事する為いつまでも健康で若々しく、それでいて発明やイノベーションを嫌うので世界は進歩も発展もせずむしろ理想化された14世紀イギリスの暮らしに退行するんだとか。


 ロンドンで革命が始まると何故競争も戦争も無い社会が世界中に伝播するのか?と言う説明も一切無く世界同時革命で外国が侵略してくる心配もきれいさっぱり無くなる、と言うのは左翼の人が大好きなヒトの自然状態はルソーの唱えるボノボみたいな温厚で相互不干渉であると言う前提なのだな。このトンチキな妄想話に夢中になる連中はそれでいてチンパンジーよりも更に凶暴なホッブズの唱える自然状態を地で行く様な御仁ばっかりですけど。

 ユートピア住民は人間になりすましたインベーダーかロボットと言うべきレベルで人間離れしているのが実に科学的、普通に読めば人間にこの共産主義ユートピアは無理なのが良く解る様になっています。SF小説ではワープドライブとか人工重力発生装置と言った幾つかのウソで物語世界にリアリティを出すのですが、それがこの本ではヒトであってヒトで無い未来人と、疫病の類を人類が克服した事になっている。リアル21世紀住民としては続々と新型の疫病が登場するのはどうするんだ?と思うけどねえ。

 それに加えてヒトの怠惰を「病気」と言う事にして「治療して克服した」事にして勤勉で利己心を持たない超人だけが暮らすユートピア世界を成立させています、怠惰が病気ってなあ、むしろヒトの本質だろうに。革命のプロセスで貴族や富裕層をどうしようもない存在として描写していますが、彼らの怠惰さも治療したのだろうか?この刑務所も死刑制度の無い空想世界には代わりに怠惰を治療する施設があるので「処置」する事で怠惰さを根絶したとなれば相当なデストピアだ。

 本書のユートピア妄想を読んで思い至るのが「ポル・ポト」に「IS」と「反日日本人」ですね、この3つのカテゴリは少なからずこの空想を現実社会に実装しようとしている。先ずポル・ポトは本書か何か似た様なユートピア本を留学先の西欧で読んでその革命とユートピア社会の建設を故郷に帰って実践したんじゃないのか?本質が怠惰であるヒトにこんなユートピア住民になれと言うのはどだい無理な話であって、怠惰さを治療する為に患部を切除しようとして例の大虐殺をやらかしたんじゃないか?

 ISも本書の「14世紀のイギリス」を「予言者の時代」に読み替えると物凄くしっくりする、モリスの反テクノロジと過度な過去の礼賛と資本主義下での貧富の差や自由の無さへの反発は、イスラム原理主義勢力が十字軍の末裔がもたらした文明と彼らと結託した権力者への反発とコーランに描かれた時代を過度に賛美してそこに自由や平等のあるユートピアを投影しているのと何ら変わりがない。つまり英国人やフランス人はイスラム過激派を狂気として捉えるのではなく、自分らが19世紀にやらかした社会主義運動と基本同じ事なのに気付くべきだろう

 そして反日日本人とネットで呼ばれる高学歴・高所得な左翼の皆様、彼ら・彼女らは近隣国の工作員や日本人のなりすましでは決して無く、モリスが本書で妄想した様なユートピア世界と現実を混同しているだけだろうと言うのが良く解ります。モリスは現実がとにかく大嫌いで、街並みも貴族も労働者も全て醜いと決めつけています。社会主義者だから労働者階級の味方だろうと思ったらさに非ず、農民や労働者をよくここまでバカにするなと言うレベルでこき下ろしています。

 そう言う部分は反日日本人でも見られる事で彼ら彼女らもリアル労働者階級は嫌いだし、仮想的有能感で現実全てを否定するモリスには「~はクソ」「~はアホ」とこき下ろすネトウヨと実は同類だな。そしてこの妄想のユートピアで気に入らないロンドンの街並みを破壊しつくして田園風景に替えてしまうのは、核戦争後の荒廃した東京で何故かメンテナンスされたバイクで走り回るとか、ゾンビに覆い尽された地上でサバイバル生活を妄想するオタクと大差無い

 パーフェクトな妄想社会と現実を比較してダメ出しするのが本書の真骨頂ですが、読むとなるほど反日日本人の現実社会への嫌悪感はモリスそのまんま。本書以外にも妄想の種本はまだ有るのだろうけど、地球市民だの憲法九条だの死刑制度反対だのゆとり教育だの、現実離れした主義主張の萌芽は洩れなく抑えてあって、誰から命じられるでも無くこのヒトが誰も暮らさないユートピアを作る為には先ずは現実社会を破壊し尽くす事が大事だと思い込んでいるのが情けなくも良く解る。作り話と現実を混同するなんて愚かさの極みですが、そう言う人がインテリや文化人ヅラしているのだな。

 本書は急速な文明化に馴染めない老人が単に「昔は良かった」と回顧するのに何故か共産主義で理論武装してしまったと言うだけの話で、現実やその延長線上の未来の話だと間違っても思わずに読めば10代向けの読み物として良く出来ています。ただ本書なのか似た様な本なのか、現実と混同するとバカな事をやらかしてしまう、空想の21世紀住民は徹底して人間じゃなく描かれているのに。そして現実の21世紀住民としては19世紀なら空想の産物だった国家社会主義や共産主義がどうなったかを歴史的な事実として知っているので、どうしても「バカだねえ」と言う感想になってしまう。


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