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ジョン・ローの虚像と実像 [書籍他]

 一般向けじゃない専門書。

ジョン・ローの虚像と実像―18世紀経済思想の再検討 (青山学院大学経済研究所研究叢書 7)

ジョン・ローの虚像と実像―18世紀経済思想の再検討 (青山学院大学経済研究所研究叢書 7)

  • 作者: 中川 辰洋
  • 出版社/メーカー: 日本経済評論社
  • 発売日: 2011/01
  • メディア: 単行本


 「資本主義は嫌いですか」を読んだ際に「ゲーテの『ファウスト』に登場する悪魔メフィストフェレスのモデルはジョン・ローと彼のバブル政策」とか有ったので興味を持ちました。

政府紙幣を考えるブログ 2011/9/21(水) 
紙幣の父 ジョン・ロー (14)  ゲーテのファウストとジョン・ロー
http://blogs.yahoo.co.jp/alternative_politik/29494373.html
>資本主義は嫌いですか 竹森俊平

>皇帝がイカサマと思うような政策。「皇帝領内に埋もれた(?)無尽蔵(?)の宝(?)」により保証することによって、「ただの紙切れ」を貨幣として流通させるという途方もない考えが、この国の財政建て直しのためにメフィストがひねり出した妙案だった。

>しかし、これによってこの国の財政は見事に立ち直る。しかも立ち直ったのは、財政だけではなかった。「過剰流動性」の力で、沈滞に喘いでいたこの国の経済は、みるみるうちに息を吹き返したのである。このケインズ経済学的処方の効能を、ゲーテは「大蔵卿」の口を通じてこう語らせる。

>紙幣づくりのくだりは、実のところ、実際にあった事件をモデルにしている。「ジョン・ロー事件」といって、大革命以前のフランスをみまった大騒動だった。ゲーテはジョン・ローをメフィストに換えて劇にとりこんだ。


資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

  • 作者: 竹森 俊平
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2008/09
  • メディア: 単行本


 と、竹森俊平氏紹介するところの「ジョン・ロー事件」が通説なんだなと。しかし、

池田信夫blog 2012年05月02日 史上最初の経済学者にして詐欺師、ジョン・ロー
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51787086.html
>ローはルイ15世の蔵相になり、政府債務を解消する天才的なスキームを提案した。彼は政府の債務をまかなうために王立銀行を設立して銀行券を発行させ、それを国立の西方会社(通称ミシシッピ会社)に貸し付けた。ミシシッピ会社は15億リーブルの銀行券を年3%の金利で政府に貸し、その資金を自社株の売却でまかなった。これは日銀が国債を引き受けて、その資金を日銀株でファイナンスするようなものだ。

>ローはミシシッピ会社に一度も行ったことがなかったが、その事業の将来性を誇大に宣伝したので、この株式はバブルを発生させ、株価は額面の36倍になった。しかしミシシッピ会社の事業は実態がほとんどないことがわかってバブルは崩壊し、年率80%のハイパーインフレが起こった(このへんの事情は 北村行伸氏の解説にくわしい)。これによってフランスの財政は最終的に破綻し、民衆が蜂起してフランス革命を起こす原因となる。


 日経新聞の「やさしい経済学」でも今年の3月にジョン・ローについての連載がありましたね。

一橋大学経済研究所 日本経済新聞 「やさしい経済学・危機・先人に学ぶ:ジョン・ロー」
2012年3月 5日 北村行伸 
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~kitamura/PDF/A239.pdf
>ここからギャンブラーとしてローの才覚と闘争心に火がつき反撃がはじまる。それと同時に、本来維持すべき銀行の金融機能から逸脱し、実体経済のアンカーを果たすべきインド会社の株価が実体をはるかに超える水準に達してしまった。

 と、基本悪人だが経済理論は凄いと言う所までリカバリーを果たしています。悪魔メフィストフェレスからだから大したもんだ。その他アルフレッド・マーシャルが「向こう見ずでバランス欠如だが、実に魅力的な天才」、カール・マルクスが「詐欺師と予言者のおもしろい人格的な混合物」、ヨーゼフ・シュンペーターが「あらゆる時代をとおして最良の貨幣理論を構築した人物」と持ち上げてたり。基本褒めるシュンペーターとケチを付けずにいられないマルクスが対照的だね。

 ところが、「スコットランド出身の思想家アダム・スミスは経済学の生みの親ではなかった」と言うビックリな一文から始まる本書は、有名な「国富論」が100%スミスの創作ではなく当時の経済学(の萌芽)の論文からアレコレつまみ食いをしている部分もあるんだとか。コレは何も「スミス盗作疑惑」と言うより国富論の上梓当時に出典を明らかにする習慣が無かっただけでそうで、そんな意味では出典を明らかにするマルクスは偉いんだけど余計なひと言を書かずにいられないところが玉にキズなんだよな。


 300ページ弱の本書は肝心のジョン・ロー伝には僅か30ページほど、ローの学説も30ページ少々、ローのほぼ同時代人である3人の学者の紹介を30ページ位した後は専門書らしい内容となるので私を含め一般の人にはあまり役に立つ本では無いですね。中川氏言うところの2007年以降のアントイン・E・マーフィーの通説をひっくり返すような画期的なジョン・ロー研究を孫引きしつつ今までの常識を覆す論を展開するので意味不明なりに面白いけど、そんな専門書故のとっつき難さも数回読みこめば判ってくるしジョン・ローの破天荒な生涯を楽しむお代と思えば良いかと

 その30ページほどの伝記ですが、上記の通説より酷くて吹きました、箇条書きすると。

1) 裕福な家庭の次男坊として生まれ長男が死んで嫡男となる。
2) ロンドン社交界で貴婦人を喰いまくる(ローは長身でハンサム)。
3) その時ギャンブルで25,000ポンドの借金を作り母親に救済を求める。
4) 決闘相手を刺殺して逮捕され死刑判決を受ける。
5) 刑務所を脱獄して逃亡。

 いやあ、こんなマンガみたいな人居ないよ。いささかロー贔屓が過ぎる傾向のある中川氏に言わせると決闘のくだりは半分作り話ではないか?と言う見立てなんですがね。その後行方をくらましたローは10年後にバクチで稼いだ160万リーブルと言う大金を持ってフランス社交界に再登場するのですが、またまたいがかがしい私設の賭博場に出入りして官憲のマークを受けたりと「白浪五人男」ばりのアンチ・ヒーロー扱いと言うかヤクザ者と言う事になっています

 これまたロー贔屓の中川氏とマーフィーに言わせると、ローはバクチと言うよりも投機で稼いだのであろうとまたまた好意的解釈だ。数学の才が有ったローが理論を駆使して投機で稼ぐと言うのは高等数学を応用したデリィバティブ投機で高収益を挙げ続けたリーマン・ショック以前の投資銀行の様でその例えの方が納得いくかもね。確率論を駆使したカードゲームでも高等数学を駆使したデリィバティブも今では双方バクチ扱いだけどね。

 さて、ローはオルレアン候フィリップの後ろ盾でフランスの財務総監(大蔵大臣)に就任するのですが、この辺のくだりは顛末をも含めて平安時代末期に後白河上皇の後ろ盾で朝廷を牛耳った鎮西入道に非常に似ていると思いました。何が似ているかと言うと

1) 太陽王ルイ14世の浪費とスペイン継承戦争で財政破綻状態となったフランスと中央政府の徴税権の及ばない荘園や寺社領が増え過ぎて歳入不足で行政が立ち行かなくなっていた朝廷。
2) 徴税権を担保に貴族から借金をして利払いに苦しんでいたフランス政府と貴族の荘園や寺社領主からの借り入れで行政を執行していた朝廷。
3) 1)・2)を是正するため摂政オルレアン候フィリップの後ろ盾で改革にあたったジョン・ローと後白河院の後ろ盾で改革にあたった鎮西入道。
4) 1)・2)の既得権益を剥奪して財政健全化を図る両名とも改革が急過ぎて敵を多数作り政権中枢から追い落とされる。

 ただ、ローの場合は逮捕されて国外逃亡で済んでいるのに対して鎮西入道は殺害されているのでそこは18世紀と12世紀の差なのかなと。上記の通説ロー・システムではローが意図的にバブルを巻き起こして一気に財政の健全化を図った様な言われ様なんですが、中川・マーフィー説ではローの追い落としを図る既得権益者がローのミシシッピー会社の株価操作をして(仕手戦みたいなイメージ)株価を意図的に釣り上げた後売り浴びせてバブルを崩壊させて失墜させたと言うのが真相では?との事。

 かくしてホリエモンの様に時代の寵児からバブル崩壊の極悪人呼ばわりと言う急転直下な有様です。まだホリエモンはネット時代だから良かったけどローの場合は上記決闘で死刑判決だのギャンブラーだのアレコレ尾ひれがついて酷いのになるとホモに雇われた殺し屋とか(当時同性愛は重罪)未発達なメディアを駆使して言われ放題だ。小泉政権時代の竹中平蔵氏辺りもネットが無かったらその後「敵はネオリベ」な新聞社に酷い中傷バッシングを「事実」としてでっち上げられていたかもしれんね。

 そんなんが経済学の素人が読んでも面白い破天荒(とされる)なジョン・ローの生き様です。英語を全く話さない後のイングランド国王ウィリアム3世と一緒にオランダから導入した金融システムが成功したイングランド銀行に倣ってバンク・ジェネラル(バンク・ロワイヤル)を設立して銀行券(紙幣)を発行して貨幣の流通量を増加させようとしたローがマネタリストかどうかはともかく。紙幣制度についてはアダム・スミスが国富論でくどくど説明しているので銀行の保有する通貨(金貨や銀貨)に交換可能な手形と言う仕組みはわかるんだけどね、その「銀行券」はその後ナポレオンが「フラン」と言う単位で定着させたとか。

 鎮西入道も後白河院の後ろ盾だけでは失敗して強大な軍事組織を持つ平清盛が後にその財政再建と貨幣制度を引き継いだのと同様、ジョン・ローの銀行構想もオルレアン公の後ろ盾だけでは失敗して後にやっぱり強大な軍事力を持つナポレオンが成し遂げた、と言うのはどうにも力の裏付けの無い理想論と言うのは既得権益者の追い落としに無防備なんじゃないの?と言う感想を持ってしまうね。

 とかローの経済理論や貨幣論も紹介されているのですが「経済学生みの親」のスミスが孫引きする位の原始の経済学だけに細かく見るとオソマツなんだけどローが発見した概念の画期的さがそれを補って余りあると言うか。なにせ重商主義経済モデルとか本書に紹介されていますが素人の私が見ても「何じゃコラ?」だしねえ。現代でもソヴェトが崩壊するまで社会主義経済システムが市場経済システムを駆逐すると信じていた人がいたり、危険債権を細分化して安全債権に混ぜ込む事で破綻リスクを問題無いレベルまで引き下げたと信じられていたサブプライムローンが販売されていたり。経済システムのモデル化と現実への落とし込みの難しさを身をもって示してくれたのがローと言う見方も出来るんじゃなかろうか?

ダイヤモンド・オンライン めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編
【第30回】 2008年11月26日 坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
ジョン・ローの「18世紀金融システム・イノベーション」
http://diamond.jp/articles/-/776


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